母が幼い私に与えてくれたのは、本だけではありませんでした。昔話や童話集、図鑑とともに、オルガンやレコードもまた、私のそばに置かれていました。ことばと音のどちらにも早くから親しんだことが、いまの表現の土台になっているのだと思います。
小学生の頃にはすでに、稚拙ながら文章や物語のようなものを書いていました。そして高校在学中、入院先で出会った旧仮名遣いの『銀河鉄道の夜』が、大きな転機となりました。活版印刷の字のかすれやゆがみ、紙に残る凹み、読みづらさの向こうにある不思議な手触り。
それは、すでに知っていたはずの物語を、初めて読むような昂りの中で開かせてくれる本でした。
そのとき触れたものが、いまも創作の底に残っています。
[Photo : Kaori Komura]